ちょうどひと月前に静岡県熱海市を襲った大規模な土石流は、谷あいの住宅地に大きな被害をもたらした。起点から河口まで直線距離にして約2キロを、複数回にわたって時速30キロほどで流れ下ったとみられる。あの日、何が起きていたのか。多くの住民や消防関係者への取材、住民が撮影した複数の動画をもとにたどった。(文中のアルファベットは空撮写真に示した位置に対応しています)
未明の伊豆山、川は濁っていた
7月3日、土曜日の未明。
熱海市伊豆山で酒販店を営む高橋幸雄さん(66)は、店の脇を流れる逢初(あいぞめ)川が濁り、石が流れ出しているのに気づいた(=A)。雨は2日前から降り続いていた。ただ、複数の住民は「普通の雨だった」と取材に振り返った。
この地域は、伊豆山の中腹からふもとにかけて住宅が集まる一帯。気象庁と静岡県は「土砂災害警戒情報」を発表していた。
午前5時ごろ。傾斜のある道路を茶色の泥水が流れ続けるようになった(=B)。ある住民は「上流で土砂崩れが起きたのかなと思った」と話した。
午前9時ごろになると、逢初川で石がぶつかるようなゴロゴロとした音が聞こえるようになった。
雨脚は次第に強まる。
午前10時ごろ、熱海市が地域の防災無線で避難を呼びかけ、避難所も開設された。
市災害対策本部によると、午前10時から同14分にかけて、住民からの通報が相次いだ。土砂崩れの予兆に関する内容が多かった。
午前10時28分、「向かいの家が跡形もなく流され、土砂で埋まっている」と土石流の被害を伝える通報が市消防本部に寄せられた。
出動していた市消防本部の杉野巧・消防司令(48)と上田洋・消防司令補(41)はその直後、道路まで達していた土砂が動き始めたのに気づいた。
記事後半では、住民らが撮影した複数の動画を元に、当時の詳細な状況をたどります。
「直ちに退避を」…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル